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路上のネコの話④

 わたしがこのあと彼にどのような感想を述べたのかは忘れてしまいました。

しかし私は今、これは実は彼自身の話ではなかったろうかと思っているのです。彼は自分の話としてわたしに話すと、自慢話のように聞こえることを心配したのではないだろうか。結局彼はネコに対して何もしていないので、大した自慢話にもならないのですが、少なくとも助けようとはしたわけなので、そう取られる要素は、あることはあるだろう。しかし話の筋はまったくそこではないので、弟の話としてわたしに伝えたのではないだろうか、と感じているのです。確かに正義とは案外このようなものなのかもしれない。何もヒューマニズムや正義感、博愛、自分を殺して他人を生かす、そんなものではなくて、案外こんな気持ちで人は善行を積んだりするのかもしれません。しかし本人にはそんなつもりは当然なく、またそんな風にも取られたくもない。でも周囲はその行為を礼賛したりしてしまう。一つの行い、事象について、軽々と判断できないし、しないほうがいいのかもしれない。それは小説を読むように、ゆっくりゆっくり固まっていくものなのかもしれません。

 しかし彼の弟は(あるいは彼は)こののちも、後悔したくない一心で、あの時ぼくは逃げたのだと思いたくない一心で、世界中の車道のネコたちを救おうとするのか、それが問題だな、と意地悪く考えたりもするのです……

 わたしの友人の話でした。

 ちなみに蛇足ながら、わたしはといえば、例えば家の中にごみが落ちていると、その場ですぐに拾わなければ、あとで拾おうと思っても、必ず忘れてしまいます。だからあとから「あれ、何かし忘れたことがあるな、なんだったっけな・・・」と思いたくない一心で、ただそれだけのために、その時、拾うのです。これもやはり同じ理屈ではないかしら…

 
 
 

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