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路上のネコの話③

「弟はさ、その時つまりネコのところに戻るとき、ああ面倒だな、このまま仕事に行こうかなと思ったらしい。確かに今戻るのは面倒くさい。適当な駐車場に車を停めなきゃならないし、汚れたネコの毛もさわらなきゃならないかもしれない。クラクションを鳴らされながら多くの車を停めて、視線を集めながら、大捕り物になってしまうかもしれない……しかしこのまま仕事に行っても、気になってしまうな、そもそも気になっておきながらこのまま何事もなかったかのように生活ができるのかな、そのまま見て見ぬふりをしたらあとでひっかかるな、と思い、仕方なく駐車場に車を停めたらしい。だから、別に動物愛護の精神だとか、か弱きかわいらしいネコを助けたかったとか、そういう優しい気持ちではなかったと言うんだ。べつに自分の知らないネコがどうなろうと、それほど問題じゃない。それはもちろん死なないほうがいいに決まっているけれど、何がなんでも助けるんだ、などという気持ちで戻ったわけではないと言うんだよ。もちろん救いたいけれど、それよりなにより自分をその現場に取って返したもの、戻したものは、単にこののち、あのとき面倒くさくてぼくは戻らなかったな、と思うだろう、何度も思うだろう、それは今の面倒くささよりさらに面倒くさいことになるな、とその一事だったと言うんだ。戻るとき、あのネコの姿を見て戻らなかった人々は、ずっとそれを抱えて生活するんだろうな、とも思ったらしい。そんなに冷静に考えられるものなのかぼくは疑問なんだけれど、弟はそう言うんだ。色々なことを忘れていくんだけれど、忘れても、しかしぼくは逃げはしなかったな、ということだけ確としてあれば、それでいいんじゃないかと言うんだな。なるほど、確かに人は片っ端からいろいろなことを忘れていくけれど、少なくともぼくは逃げはしなかったな、と思えれば、それはなかなかすてきなことだなとは思うんだよね。でもそんなことを人はできるんだろうか……君はこの弟の話をどう思う?」

そこで突然彼の話は終わった。

彼の話は終わったのに、家内の集中力の問題で、まだまだ引き延ばし、次回に続くのです…

 
 
 

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