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名言についての所感  泡坂妻夫篇 1/4

更新日:2021年3月10日

「観客に道具を手渡して、改めさせるときは、絶対に子供にあずけちゃいけませんよ。もし子供に調べさせるのでしたら、その子を舞台に上げて、きちんとお辞儀をさせ、紳士にしてから品物を手渡しなさい」 ― 泡坂妻夫「11枚のとらんぷ」より


奇術家でもあった作者の、奇術においての心構えの一つとして、作中の一場面において披露されます。

「11枚のとらんぷ」において、初めて奇術を披露するマイケル・シュゲット氏が、これから披露するマジックの道具であるチャイナリング(いわばただの鉄の輪っかです)に、種も仕掛けもないことを改めさせるために、不用意に観客席にいる子どもの一人に手渡してしまいます。すると周りの子どもたちはその子に群がり、収拾がつかなくなってしまいます。客席は混乱し、あわてて舞台を降りてチャイナリングを取り返しに行ったシュゲット氏は、混乱で眼鏡をなくし、壊してしまいます……

 なるほどこれは子どもであれば起こりそうなことだ…と思えます。しかしこのことは、子どもだけにとどまらず、人間の根源的な性質に関わる大変示唆に富んだ教えであると感じます。一度興奮状態に陥ると、子どもは自分自身を自分で制御できません。大人でも制御できなくなることが多くあります。先日議事堂に大挙して押し寄せたトランプ支持者の例もそれを想起させます。

人は、社会性動物です。例えば客席ではじっと座っていなければならないことを承知しています。例えば客席でおしっこしてはいけないことを知っています。当たり前のことと思うかもしれませんが、例えばそこにサルやその他の動物を持ちこんでごらんなさい。彼らはそこで糞尿を落としてはいけないということを承知しておりません。なんのためらいもなくもよおせば行動するでしょう。

しかし人間はできません。命令されてもできないでしょう。そこには道徳があるからです。徐々に身に着けてきた常識、礼儀、作法、道徳、文化をもっているからです。

 続きは次回。


 
 
 

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